労働安全衛生法とは
労働安全衛生法制定の目的・背景
労働安全衛生法(安衛法)は、事業者が労働者を職場における労働災害や健康障害から守り、快適に働ける環境づくりを促進する目的があります。
労働災害とは、労働者の就業にかかわる建設物や設備・業務に起因して、労働者が負傷する・疾病にかかる・死亡すること。
昔は労働基準法において、労働安全衛生関連の規定が定められていましたが、高度経済成長期に労働災害が急増したことを受け、1972年に独立した法律として労働安全衛生法が成立しました。
以下のグラフから、高度経済成長期(1955~73年)では、労働災害による死傷者は300,000人を超え、死亡者数は6,000人以上に上っていましたが、建設業や製造業など、高度経済成長期に主流であった業種に沿って法律が制定されたことから、制定の1972年以降は、労働災害による死傷者数などが、大幅に減少していることが読み取れます。

労働基準法との違いは?
労働基準法と労働安全衛生法の違いを、以下の表にまとめました。
このような違いがありますが、労働基準法による過重労働の抑制(長時間の労働時間規制など)が、作業ミスや疲労による災害の抑止に、労働安全衛生法による作業現場で安全確保をする仕組みを実装することが、労働基準法の理念を反映するなど、相互に補い合っていると言えるでしょう。
労働安全衛生法の概要
労働安全衛生法が定める7つの義務
労働安全衛生法が事業者に定める義務は、主に以下の7つです。
1.安全衛生管理体制の確立
総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、衛生推進者・安全衛生推進者、産業医などの選任と職務遂行。
労働者代表と共に、安全委員会・衛生委員会を規模や業種に応じて設置し、毎月1回以上定期的に開催・運営する義務がある。
2.危険・健康障害の防止措置
労働者の危険や健康障害の防止について定めたもの。
機械や設備により生じる危険や、作業場所での転落防止、有害物質による健康被害の予防など、労働者の危険につながるような事項について、必要な措置を講じる義務がある。
3.機械・危険物・有害物などの規制管理
労働者に危険が及ぶ恐れのある機械や危険物、有害物に関して、検査や表示などの義務がある。
機械に関する規制については、機械の故障、異常によるけがや事故を防止するため、製造許可方法や検査時期、譲渡制限などの事項を義務付けている。
4.労働者の就業にあたっての措置
労働者が安全に働くための施策として、安全衛生教育の実施義務がある。
安全衛生教育とは、安全衛生知識を習得する教育研修のことで、雇入れ時や作業内容の変更時に、実施することを義務付けられている。
危険・有害業務の場合は、特別教育を実施する必要がある。
5.作業環境管理と作業管理
粉じんや放射線などの健康障害を及ぼす有害因子の状態を把握し、可能な限り良好な状態で管理すること。
労働者の健康に影響を与える恐れがある業務を行う場合、作業環境の測定と記録を実施し、その結果に応じた改善措置の義務がある。
リスクアセスメントによる、職場内の潜在的危険の抽出とその改善も含まれる。
6.健康管理
労働者の健康管理を目的として、事業者には健康診断やストレスチェックの実施、医師による面接指導が義務付けられている。
健康診断は、年1回以上の定期健康診断や有害業務に就く労働者への特殊健康診断など、実施義務は対象者により異なる。
ストレスチェックは、常時使用する労働者が50名以上の事業場において、年1回実施の義務がある。
※50名未満の事業場についても、今後数年以内に義務化される予定(後述)
7.心身状態に関する情報の取扱い
安全衛生に関する法令の周知や労働者の心身の状態の情報の取扱いなど、実務的な規定を定めている。
法令の周知として、法令の要旨を作業上の見やすい場所に掲示したり、産業医選任時には業務内容を知らせる義務がある。
労働安全衛生法に違反すると?
労働安全衛生法では、労働基準監督署による監督体制や、違反した際の罰則規定が定められているため、労働安全衛生法違反が疑われると、労働基準監督官による是正勧告や指導の対象となり、企業の信用にも影響します。
さらに違反が発覚した場合には刑事罰の対象となり、懲役や罰金が科される可能性があります。
改正のポイント
1972年に制定された労働安全衛生法は、昨今の社会情勢や産業構造の変化、労働災害の傾向などに応じた法改正を重ねてきました。
ここでは、近年における改正内容について紹介します。
2024年の主な改正
以下の改正によって、化学物質による健康被害を未然防止し、事業者による主体的かつ自律的な管理体制の強化を目的としています。
1.化学物質管理体系の見直し
・ラベル表示・通知をしなければならない化学物質の追加
・ばく露を最小限度にすること
・皮膚等障害化学物質への直接接触の防止
・化学物質労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示
・リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等
2.実施体制の確立
化学物質を扱う業種や作業において、管理体制の明確化と責任の所在を明らかにすることが求められている。
・化学物質管理者・保護具着用責任者の選任義務化
・雇入れ時等教育の拡充
3.情報伝達の強化
・SDS(安全データシート)等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化
事業者は化学物質のリスクをより正確に把握し、労働者の安全確保を図る必要がある。
4.第三管理区分事業場の措置強化
作業環境測定で「第3管理区分」と評価された事業場への対応を強化すること。
第3管理区分とは、有害物質の濃度が許容範囲を超え、労働者の健康リスクが高い状態のことを指す。
2025年の主な改正
以下の改正によって、作業を請け負わせる一人親方や、同じ場所で作業を行う労働者以外の人に対しても、労働者と同等の保護が図られるようになり、多様な働き方に対応した、より包括的な安全衛生管理体制が求められるようになりました。
1.危険箇所での保護対象範囲の拡大
危険箇所への立入禁止や火気使用の禁止、事故発生時の退避、悪天候時の作業禁止など、従来は自社の労働者のみが対象であったが、雇用関係や契約形態を問わず危険箇所などで働くすべての人を対象とすることが義務化。
2.一人親方や外部委託者への周知義務化
立入禁止とする必要があるような危険箇所において、例外的に作業を行わせるために労働者に保護具などを使用させる義務がある場合には、一人親方や下請業者にも、保護具などを使用する必要性を周知することが義務化。
3.熱中症対策の強化
熱中症による死亡災害の増加を受け、熱中症対策の強化が義務付けられている。
ただし、すべての企業に対して義務付けられるわけではなく、以下を満たす作業をおこなっている企業が対象。
条件
・WBGT(湿度や輻射熱を考慮して算出された数値)28度以上または気温31度以上の環境での作業
・上記の作業環境で連続1時間以上もしくは1日4時間以上の実施が見込まれる業務
2026年の主な改正
今年2026年4月より、法改正が段階的に施行されています。
以下の改正によって、これまでは保護の対象ではなかったフリーランスや一人親方などの個人事業者も、一定の条件下で適用されることになりました。
誰もが安心して働ける環境の整備が急務となっています。
1.個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
現行
現場を統括する元方事業者には、自社の労働者および関係請負人の労働者に対し、災害防止対策を講じる義務がある。
↓
改正案
2026年4月より、労働者と個人事業者が混在する作業場での、安全衛生管理の対象範囲が拡大。
現場で働くすべての作業者に対し、安全教育や連絡・調整、危険な機械の使用制限といった対策が必要となり、現場全体の災害リスクを、さらに減らすことが期待されています。
なお、2027年からは、個人事業者自身にも、安全ルールの遵守が義務付けられる予定です。
2.職場のメンタルヘルス対策の推進
現行
ストレスチェックの実施は、労働者が50人未満の事業所においては、努力義務にとどまっている。
↓
改正案
職場におけるメンタルヘルス対策の推進として、ストレスチェック制度の義務対象がすべての事業所へ拡大される予定。
事業所の規模にかかわらず、メンタルヘルス不調の早期発見・予防につながることが期待されています。
※2028年5月までに施行される予定。
3.化学物質による健康障害防止対策等の推進
改正案
2026年4月より、営業秘密である成分に係る代替化学品名でのSDS通知の許可、同年10月より、個人ばく露測定の精度担保などが順次施行。
また、化学物質を扱う職場では、譲渡や提供の際にSDS(安全データシート)通知義務について、違反時の罰則規定が強化される予定です。(※)
※公布後5年以内に政令で定める日から施行される予定。
4.機械等による労働災害の防止の促進等
改正案
一部の検査について、民間の登録機関による実施が可能に。
審査や検査の効率が向上する一方、不正防止策の強化が図られることが期待されています。
また、フォークリフトの技能講習についても、不正な修了証の発行や、誤解を招くような紛らわしい書類の交付を禁止するとともに、不正を行った場合の回収命令、欠格期間の延長を規定。
5.高齢者の労働災害防止の推進
改正案
事業者に対して、災害防止のための対策を講じることが努力義務に。
体力や健康状態に配慮した職場環境づくりが、これまで以上に重要となる見込みです。
近年ではこのように、時代とともに法改正がされてきていますが、さまざまな背景により、今後も労働安全衛生法の改正は予想されるため、早めの情報入手を心がけ、施行時期を把握したうえで、自社規定へ迅速に対応していくことが望ましいでしょう。
建設業の安全を守るお役立ちツールの紹介
常に危険と隣り合わせの建設業界において、労働安全衛生法に規定された主要義務への対応は早期に必要となり、安全を確保しながら、快適に働ける環境づくりを目指してくことが求められます。
とはいえ、ただでさえ人手不足の中、早期対応が大変‥‥といったお声もあるかと思います。
そんなお悩みには、効率的かつスピーディーに対応することができる、ツールを活用することがおすすめです!
そこで、建設業界におすすめの労働安全衛生法対策ツールを紹介します!
AIによるリスクアセスメントに「kintone(キントーン)」
AIを活用してリスクアセスメントを効率化するには、日々の工事日報データをどれだけ活かせるかがポイント。
AIをはじめとする他のシステムとも連携しやすいため、工事日報をkintoneに登録してAIと連携させることで、データ収集からリスクアセスメント・報告書作成・関係者への回覧までを、ワンストップで実現可能。
実施から記録、提出までの安全管理業務を効率化「SAVIOUR NEXT(セイバーネクスト)」
すばやく正確にリスクアセスメントを実行し、リスクに紐付く作業手順書や災害ヒヤリハット事例、多数のイラストなどによって、安全資料の作成時間とコストを削減することが可能。
さらに、CGによるリアルな労災事故映像を活用した新時代の安全教育で、従業員の安全意識の向上をサポート。
写真をアップロード、すぐに危険を発見「安全支援アプリ」
画像をインプットするだけでAIが現場を正確に把握し、安全指摘事項と対策案を提案。
建設土木特有の基礎データを取り込み、施工管理の有資格者が出力文を監修しているため、建設の現場に合った回答を得ることが可能。
現場の安全意識向上、若手職員の教育、報告書への利用など幅広く活用することができる。
建設現場の安全・品質管理の指摘管理をスマートに「AQuick(エークイック)」
建設現場の安全や品質に関する指摘を入力することで、関係者間でタイムリーに通知することが可能。
指摘の内容は、図面上の位置や写真で正確に伝えることができるため、是正漏れを防止。
安全・品質管理に特化したアプリであることから、必要とされる機能を迷わず・カンタンに使うことができる。
このような労働安全衛生法対策ツールを活用することで、人手不足の状況においても、効率的かつスピーディーに対応が可能となります。
「安全の確保」や「快適に働ける職場づくり」を中心に、現場の課題にあったツールを活用することがおすすめです!
まとめ
労働安全衛生法について、時代の背景とともに、今後も法改正がされていくでしょう。
常に危険と隣り合わせの建設業界において、労働安全衛生法を遵守しながら、労働者の安全を確保することを第一に、かつ、快適に働ける環境づくりを目指していくことが必要となります。
違反事業者は、労働基準監督署による行政指導などの対象となり、事業者が負う安全配慮義務の責任がより重くなることから、早期対応をおすすめします。
今回ご紹介したお役立ちツールを活用しながら、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進していただければと思います!
本記事は、YSLソリューションで調べた内容をもとに作成した、記事執筆時点での情報です。
参考情報であり、正確性や完全性を保証するものではありません。
当該情報の利用により生じたいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます。